ぬかるみカメラ Q1 Digital

ぬかるみカメラとは

世の中、何をやっても上手くいかない日がある。道端に落ちた犬の糞を避けようとしてドブにはまるような日だ。そんな日を何とかしようとすれば余計ぬかるみにはまるので、無かったことにして次の日からがんばる方が良い。「ぬかるみカメラ」とはぬかるみにどっぷり浸かった状態で生み出されたカメラを指す。もちろん私が作った言葉だ。性能が悪かったり売れなかったりしただけではぬかるみカメラとは言わない。見ていて「何でこんな物ができてしまったんだろう」というため息が出るカメラ、それがぬかるみカメラだ。

今回の話題は富士フイルムのデジカメQ1 Digital。かなりぬかるんでいる。

 

評価しかねるデザイン

まずQ1 Digitalで目を引くのは奇抜なデザイン。デジカメは20世紀末の黎明期に奇抜なデザインが多かった。フィルムカメラの制限から解き放たれたデザイナー達が未来の姿を求めて色々追求したのだ。しかし今カメラ店に並んでいる物を見ると昔のフィルムカメラに近い形の物がほとんど。結局ユーザーはオーソドックスな形を望んだのだ。なぜそうなのかという理由は大いに議論のしがいがあるが、結果はもう確定している。

Q1 Digitalのデザインは単純に悪いとは言えない。純粋に美術的に見ればむしろ美しいと言えるかもしれない。しかしこのカメラが発売されたのは2005年であり、デジカメユーザーがこんなデザインを好まないということが明らかになった後なので、「評価しかねるデザイン」と言うしかない。いい感じにぬかるんでいる。

 

 

実は兄が存在する

実はQ1 Digitalには兄というべきカメラが存在する。同じ富士フイルムが発売したネクシアQ1というカメラだ。但しこれはデジカメではなくAPSフィルムカメラ。カメラに限らず、製造業では過去の製品をリバイバルさせることはよくある。デザインやコンセプトを受け継いだ新製品を「・・・の再来」とか「・・・の思想を受け継ぐ」いう具合に売り出すのだ。ところがネクシアQ1とQ1 Digitalは同時期に市場に存在したのでリバイバルとは言えない。原理の違うのカメラを同じような形に仕上げて同時期に出したということになる。

 

上がAPSカメラ「ネクシアQ1」、下がデジカメ「Q1 Digital」 (同縮尺)

 

 

上がAPSカメラ「ネクシアQ1」、下がデジカメ「Q1 Digital」 (同縮尺)

 

しかしこうして2台を並べてみると、「同じような形」というレベルではない。主要な寸法までほぼ同一なのだ。「部品を共通にして開発コストを下げたのでは?」と考える方もおられるだろうが、原理が違うということは中身は全く違うということで、共通化できる部品はほとんど無い。むしろ大きさ・形を同じにするためにQ1 Digitalでは設計上の制約が増えたと考えるべきだ。

 

手前がAPSカメラ「ネクシアQ1」、向こうがデジカメ「Q1 Digital」

 

両機共グリップ部の下に蓋がある。ネクシアQ1ではこの部分にAPSフィルムを入れるが、Q1 Digitalでは単三電池2本とメモリーカードを入れる。全く違う形状の物を納めるために多くの部品を形状変更していることがわかる。ここまでしてなぜ同じ外観にこだわったのだろう。実にぬかるんでいる。

 

ぬかるみはぬかるみを呼ぶ

APSカメラのネクシアQ1が大成功したという経緯があるのなら、そのデジカメ版を作ろうという企画は理解できる。例えばキャノンにはAPSカメラにIXYシリーズという傑作機がある。APSカメラの中では一人勝ちのようなカメラで、後にその名前とデザインコンセプトを受け継いだデジカメへと移行して行った。これに対してネクシアQ1が発売されたのは21世紀になってからで、もはやAPSを含めたフィルムシステムに未来は無かった。敗戦登板と言えば口が悪いが、ネクシアQ1自体がかなりのぬかるみカメラなのだ。それから数年後、なぜわざわざネクシアQ1と同じ大きさ・形のデジカメQ1 Digitalを作るというプロジェクトが始まったのか。ぬかるみはぬかるみを呼ぶのである。

Q1 DigitalがネクシアQ1と同様にシンプル・安価・大量生産という路線で企画されたことは容易に理解できる。しかしフィルムカメラの場合はカメラを安価で供給することがフィルムの販売促進となり、最終的にフィルムメーカーである富士フィルムに利益をもたらすわけだが、デジカメではそのような効果はあまり期待できない。Q1 Digitalは製品としての位置づけが良くわからないのだ。

このカメラが発売されたのは2005年で、携帯電話の内蔵カメラにすらAFが搭載されていた時代である。その時代にこんな固定焦点のデジカメを出しても相手にされるはずもなく、発売から数ヶ月で生産終了となった。兄のネクシアQ1は2006年まで出荷されたので、年の離れた弟が夭逝したのだ。ちなみに固定焦点のデジカメはトイデジカメを除いてほとんど存在しない。

そしてQ1 digitalの在庫は特価品としてどこかに流れていった。

 

パチンコ屋から私の手元へ

私はつい最近このQ1 Digitalを買った。ネット上で箱入り新品2,000円のものを見つけたからだ。販売元はパチンコ屋の景品を扱っている業者で、「パチンコ屋の景品です。そのため、箱つぶれ、箱の日焼け、ヤニ汚れ、タバコの臭いなどが付いた商品も含まれております。」と表示してあった。実際に届いた商品の外箱はかなり日焼けしていたが、中身は間違いなく新品だった。

パチンコ屋に流れたぬかるみカメラがそこでも行き場所を見つけられず、何年もかけて私の手元にやってきた。これは感動的な話なのか、ただダメなだけの話なのか。

 

真綿で首を絞めるような性能

Q1 Digitalの性能がひどいならそれはそれで話題になる。しかし、何というか、全ての性能が中途半端に具合が悪いのだ。使っていると一気に殺されるのではなくじわじわと体力が奪われる感じがする。

Q1 Digitalには光学ファインダはなく、背面の液晶パネルを利用して撮影する。現代のコンパクトデジカメでは当たり前の仕様だ。昔の機種なのでパネルサイズが1.5インチと小さいのは仕方ないとしても、問題なのはパネルの輝度だ。最高輝度に設定しても晴天の屋外では全く見えない。「見えにくい」ではなく「見えない」レベルだ。当時は液晶パネルの性能が低かったというのは当然のことだが、使えなければしょうがない。これならデジタルズームなどという使えない機能を省いて素通しののぞき穴でも付けるべきだった。兄のネクシアQ1は(フィルムカメラなので当然だが)光学ファインダ搭載なのでずっと実用的である。

付いているレンズはf=7.7mm F3.5で、35mmフィルム換算46mm相当の画角だ。これは現代のコンパクトデジカメの常識からすればずいぶん長焦点で、スナップ撮影ではかなり不自由する。兄のネクシアQ1が35mmフィルム換算28mm相当と実用的だったのとは対照的。しかもAF機能はなく固定焦点。 ネクシアQ1ですらAFだったのに退化している。通常の撮影範囲は100cm~無限遠で、レバーの切り替えで60cm~100cmとなる。ものすごく中途半端な接写機能である。

撮像素子は400万画素である。その割に撮影した画像のサイズが大きく、最高画質モードで撮ると一枚3MB程度にもなる。メモリーカードなしでも内蔵メモリに記録可能であるが、容量はたった16MBしかないので3~4枚しか撮れない。メーカーは「メモリーカードなしでも最大約151枚の撮影が可能」とアピールしていたのだが、これは30万画素モードで撮った場合。当時でもそんなモードで撮る人はあまりおらず、メモリーカードは買うしかなかった。

しかもちょうどQ1 Digitalが現れた頃に各種メモリーカードは大容量対応の新規格に移行しはじめた。Q1 DigitalはxDピクチャーカードを使う。xDピクチャーカード自体が採用した富士フィルムやオリンパスにとっての黒歴史である。しかもこの時xDピクチャーカードは大容量対応のTypeMという新規格に移行を始めており、512MB以下の旧規格カードしか使えないQ1 digitalは更なるぬかるみにはまって行った。Q1 Digitalの生産が中止になった後にメモリーカードの価格は暴落を始め、大容量のものが桁違いに安く買えるようになった。全てにおいて間が悪いのである。

電源は単三電池2本だが、電池の消耗が激しく、アルカリ電池を使ったら1日ももたない。ニッケル水素電池が必須なので、これでは「単三で動く」というメリットは生かせない。いろんな意味でため息の出るカメラだ。

 

けど画は魅力的

さて、それではQ1 Digitalで撮れる画がどうなのかと言うと、これが意外に良い。おもちゃ然として機能もシンプルなデジカメだが、基本はしっかりしている。さすが大企業富士フイルムの製品、トイカメラとは全く違う。

 

 

画像は周辺までシャープである。何よりも発色がすばらしい。Q1 Digitalは今では少なくなった原色系CCDを採用している。そのせいかどうかは断定できないが(発色は信号処理による部分も大きい)、とにかく色が鮮やかだ。特に赤が強烈に発色する。

原色系CCDは補色系CCDに比べて感度に劣るという特性があり、Q1 Digitalもその通りの性質を持っている。最高感度はISO換算でたった200である。手ぶれ補正機能など当然付いていないので、少し暗いところでは画像はぶれるし、ノイズも多く乗る。

 

 

こういう写真を見ていると、今のデジカメが「写りすぎ」なのかもしれないなと思ってしまう。フィルムの時代はノーフラッシュならこういう画になるのが当たり前だった。

 

買ったらぬかるみ

今このQ1 Digitalを持っていたら、トイカメラ好きは必ず反応するだろう。実用機としても使える範囲なので、少しレトロな小物として・・・・・なんていう甘い言葉にはだまされないように。今でもたまにQ1 Digitalが販売されているのをネット上で見かけるが、けっこうな値段がついていることもある。私が買った値段以上を出せば、あなたがぬかるみにはまる。

ちなみにQ1 Digitalの発売時の価格は2万円に近かった。こんなにシンプルなカメラでもそれぐらいはしたのだ。今や1万円出せば申し分の無い性能のデジカメが買える。便利になったが夢は減った。

 

 

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