筋は通っていた「ママショット」

昔話をしよう

21世紀に入ってフィルムカメラは急速にデジカメに置き換わっていった。この変化はちょうどITが急速に発展した時期と合致している。

今の若い子はITが発達した状態しか知らない。PCや携帯電話、インターネット環境があるのは当たり前で、メモリーカードなど安価なものだと思っている。デジカメもこういう整ったインフラの中で使うガジェットの一種だと考えている。

今回はそんな若い子達に昔々の話をしてみることにしよう。まずはこのプレスリリースを良く読んでほしい。2003年の話だ。君たちにとっては大昔の話だが、私にとってはついこの前のことだ。

 

         
  プレスリリース詳細  
 
2003/07/02
 
株 式 会 社  バ ン ダ イ
本社:東京都台東区駒形2-5-4
社長:高須 武男、資本金236億円
 
 

撮って、テレビにつないで、すぐ再生!
デジカメやパソコンの操作が苦手な方でも
簡単にBGM付きスライドショーが制作できるデジタルカメラ
『mamashotママショット』を7月20日より発売

 
 

(株)バンダイは、撮影してテレビに接続するだけで、誰でも簡単に映画のワンシーンのようなBGM付きスライドショーが制作できる、操作がとてもやさしいデジタルカメラ『mamashotママショット』(オープン価格/税別)を、2003年7月20日より全国の大型雑貨店、通信販売、家電店などで発売します。 
『mamashotママショット』は、BGMやフェードインなどのビデオ効果を内蔵したデジタルカメラです。パソコンは一切使わず、撮影してテレビにつなぐだけで簡単に映画やドラマのワンシーンのようなスライドショーを作ることが出来ます。'お子様やペットの成長記録'や'ビデオレター'など、様々な目的でお楽しみいただけます。 
ターゲットは、パソコンやデジタルカメラ初心者や30代~50代の主婦です。当社は発売から1年間で10万個の販売を計画しています。 


 
写真:『mamashotママショット』


★『mamashot』とは?

軽くて、持ち運びにも便利な『mamashot』。難しい操作は一切ありません。写真を撮ってテレビに接続するだけの簡単な操作で、映画やドラマのワンシーンのようなBGM付きスライドショーが完成します。また、撮影後もパソコンを一切使用しません。つまり、撮影してケーブルでテレビに接続すれば自動的に、BGMやフェードインなどの演出効果の入った感動作品ができあがります。でき上がった作品はビデオや記録型DVDなどに保存が可能です。 
『mamashot』を使えば、パソコンやデジカメの操作が苦手な方でも、いつでも簡単にオリジナル映像制作をお楽しみいただけます。 

★こんな時『mamashot』が大活躍!! 

(1)お子様やペットの成長記録 
(2)おじいちゃんおばあちゃんへのビデオレター 
(3)結婚式での記録や上映 
(4)日常の生活のスナップショットとして など・・・。 

★遊 び 方

(1)難しい設定は不要、どんどん撮影!
電源を入れ、シャッターボタンを押して撮影します。画像は本体に100枚まで保存が可能で、ストロボやセルフタイマー(10秒)での撮影もできます。(フィルム不要、スマートメディア等の汎用メモリーには対応していません) 

(2)好きなBGMを選び、マイクで声を録音する!
撮影が終わったら、本体についているボタン操作で、演出のための音楽を選びます。音楽は、やさしいオルゴール調のBGMを15曲内蔵しており、「クリスマス」「お誕生日」「ウェディング」などのカテゴリーからお好みの曲をお選びいただけます。また、音声録音(20秒間)が可能で、日付やメッセージを入れれば、スライドショーの上映時に自動的に再生されます。 

(3)BGM付きスライドショーをテレビで上映!
本体をテレビにつないで、本体のボタンを押すだけで、撮った映像を順番に映し出し、オリジナルのBGM付きスライドショーが完成します。フェードインやフェードアウトなど、映画やドラマさながらの演出効果が自動的に設定されます。 

(4)ビデオやDVDに保存して、みんなに送ろう!
制作した作品は、ご家庭のビデオテープやDVDに保存することができます。 

(5)ライブカメラ機能付き!
カメラが写している映像をリアルタイムでテレビに出力します。もちろん録画も可能です。(音声は入りません) 


<商 品 概 要>
■商 品 名 『mamashot』(ママショット)
■発  売  日 2003年7月20日
■メーカー希望小売価格 オープン価格
■販  売 ルート 全国の大型雑貨店、通信販売、家電店など
※通信販売・・・ネット通販、テレビ通販等
■内      容 カメラ本体
AVケーブル、ACアダプター、
三脚取り付け用スペーサー、取扱説明書
■発  売  元 株式会社バンダイ
■基 本  仕 様


【映像素子】 30万画素CMOS画像センサー
【撮影範囲】 1m~∞(無限大)
【出力形式】 NTSC出力、ビデオ出力・モノラルオーディオ出力
【撮影可能枚数】 100枚(保存枚数)
【メモリ】 内蔵16MBフラッシュRAM
【出力端子】 カメラ:専用ミニプラグ端子
【テレビ(ビデオ)】 標準ピンプラグ
【マイク】 内蔵マイク(最大録音時間20秒)
【セルフタイマー】 10秒タイマー
【ストロボ】 内蔵式(強制発光モードあり)
【BGM】 内蔵式9グループ 15曲(ハッピーバースディなど)
【ライブカメラ】 最大15fps
【バッテリー】 単3アルカリ乾電池×2本(別売)
ACアダプタ付属(5V 300mA)
【電池寿命】 通常撮影時 約480枚
ストロボ発光時 約50枚
【オートパワーオフ】 60秒後
【製品サイズ】 H76×W91×D31mm
【パッケージサイズ】 H255×W160×D65mm
【製品重量】 約92g(電池除く)


バンダイホームページ http://www.bandai.co.jp

 
         

元ページはこちら

 

果たして書いてある意味がわかるだろうか?

 

主婦にパソコンは使えなかった?

「パソコンは一切使わず」、「ターゲットは、パソコンやデジタルカメラ初心者や30代~50代の主婦」、「撮影後もパソコンを一切使用しません」と、何やらフェミニストがわらわら湧いてきそうな文言が並んでいる。しかし当時の状況を考えれば別におかしなことではない。「主婦にパソコンは使えない」というより「主婦が使いたいと思うほどパソコンは便利なものではない」ということだ。

まずパソコンは大きく場所をとるものだった。この時代タブレットなどはもちろんなく、ノートパソコンは高価だったのでデスクトップが主流だった。キーボードを置いてプリンタを並べたりすると部屋の一角を占拠してしまう。しかもこの時代パソコンは大して役にはたたなかった。当時はようやくブロードバンドが普及しはじめた頃、華やかな動画サービスなどもちろんなく、FacebookもTwitterもない。2chにカキコして遊ぶのがせいぜいであり、そんな目的のために主婦がパソコンを導入したりはしなかった。

「使えない」以前に「ない」のである。

 

デジタルデータは保存しなかった?

これは実際に私が知っている主婦の話である。彼女はこの頃(2003年前後)デジカメを使い始めたのだが、撮った画像データはプリントサービスに出した後は消去してしまうのだ。聞いた私の背筋は寒くなったが、よく考えればそんなに異常なことではない。

フィルムカメラの時代、写真はプリントすればほぼそれでおしまいだった。ネガという原版は手元に残るのだが、プリントの焼き増し(ほぼ死語)などめったにやらないし、そのネガだってそのうち行方不明になってしまう。デジタル画像データはフィルムに比べて圧倒的に利用性が高いわけだが、SNSも無い時代では大したメリットにならなかった。データをパソコンにコピーするという「努力」をする必然性はなかったのだ。デジカメはフィルム(メモリーカード)が何度でも使える新種のカメラに過ぎなかった。

参考までにこれが当時のSDメモリーカードの価格である。非常に高価で、1GBのSDカードはまだ登場していなかった。32MBぐらいのものを買ってどんどん再利用しようとするのはごく自然な考え方である。

 

 
SDメモリーカードのヨドバシカメラ店頭販売価格(2003年7月)
 
           
 
容量
価格
   
 
16MB
2,180円
   
 
32MB
2,480円
   
 
64MB
4,280円
   
 
128MB
6,980円
   
 
256MB
12,800円
   
 
512MB
34,800円
   
           

 

ママショットは内蔵16MBのメモリに記録し、記録したデジタルデータを外に出す方法はない。今考えると恐るべき割り切りぶりである。

 

画像はテレビで見るものだった?

ではママショットで撮った画はどうやって見るのかと言えば、テレビにつないで見るのである。最初に断っておくが、この時代のテレビはハイビジョンではない。アナログテレビ(つまりは戦後すぐから続くNTSCと呼ばれる旧世代のシステム)だった。液晶テレビは普及しておらずほとんどがブラウン管テレビだった。

私は学校を出て技術者になったころアナログテレビのシステムを基礎から教えられた。だから非常に思い入れはあるのだが、率直に言ってこんなものは静止画の鑑賞に耐えられるものではない。まず解像度はせいぜい十数万画素程度(考えようによってはそれよりずっと低い)。インターレスという走査方式なのでちらついて目に悪い・・・・等々。アナログテレビで見るというのは、要するに家庭にはそれ以外のものがなかったからだ。

撮像素子が「30万画素CMOS画像センサー」とあるが、アナログテレビで表示するにはこれ以上の画素は必要ないのだ。ちなみに「30万画素相当の画質」ではない。説明すると難解で長くなるので書かないが、アナログテレビシステムの場合得られる画質は撮像素子の画素よりずっと低いものにしかならない。

 

画像はVHSテープに保存した?

近頃ではVHSテープを見たことがない子も多い。ママショットはアナログビデオ信号で出力することしかできないので、撮った画像を保存しようとすればVHSデッキにつないで動画として保存するしかないのだ。

今思うと、VHSテープというのは実に巨大であった。SDカードと比較するとこの有様。

 

 

このころ家庭用DVDレコーダは存在したが、まだまだVHS録画が主流であった。

 

「ビデオレター」とは?

プレスリリース中の「ビデオレター」という用語は、

 

VHSテープを郵送すること

 

である。もらった人はガチャっとVHSデッキに押し込んで観るのである。若い子には原始人のやる行為に思えるだろうね。

 

音楽はカメラに内蔵?

プレスリリース中の「簡単にBGM付きスライドショーが制作できる」という言葉が表している。ママショットはビデオ出力端子の他に音声出力端子もある。いくつかの音楽が内蔵されており、静止画スライドショーを音楽付きで出力できるのである。音楽は「ハッピーバースディ」とか、まあそういう類いのものがいくつか用意されている。

ママショットは録音もできる。「各写真に音声解説が入れられるのか、それは便利だ」と思った方、残念です。音声は一つしか録音できません。つまり、スライドショーに前説が入れられると言うことだ。

 

百聞は一見にしかず

それではママショットで撮った写真の「スライドショー」をご覧下さい。NTSCビデオ出力を動画キャプチャしたものです。音楽もママショットが自動的につけたもの。

     
   
     

スライドショーはちゃんと黒からワイプインし、黒にワイプアウトして終わる。音楽もちゃんとフェードアウトして終わる。じつにきっちりとした作りなのだ。トイカメラの位置づけとは言え、さすが大企業の製品である。

 

この動画から静止画を切り出すと、こんな具合。

 

等倍

 

中央部を2倍に拡大したもの

 

画質はこの程度。被写体のエッジはでこぼこし、色もひどい。アナログテレビ(NTSCシステム)は原理的にこんなものだ。本来動画を離れたところから見るために考えられたシステムであり、静止画を目を近づけてしげしげ見るためのものではないのだ。

 

筋は通っていたのだが・・・

ママショットはパソコンを使わないデジカメという前提で企画・開発された。その前提では実に筋の通った製品であった。優秀な技術者が多数参加して作られたことは物を見ればわかる。

問題はその前提がピント外れだったこと。「デジタル画像はパソコンで使ってなんぼ」ということが理解できていなかったのだ。この当時、パソコンを持っていない主婦にとって写真は「写ルンです」で撮ってコンビニにでDPEしてもらう方がよっぽど簡単・便利・実用的だった。いくら「デジタル時代」「IT時代」と世の中が騒いだとしても、それを求めてもいない層に押しつけても受け入れられるはずはない。

ママショットはプレスリリースによると1年間で10万個の販売を目指していたらしい。存在すら知られず競合商品が現れることもなくあっというまに消えていった。

 

 

 

 

目次に戻る