M532、再び

実はモノクロームの名機

AGFAPHOTO AP15のコラムを書いていて考えた。モノクローム撮影ができるデジカメを語るなら、KODAK M532を外すわけにはいかない。そう、本コラムの第一回で取り上げたあのカメラである。

 

KODAK M532

 

デジカメのモノクローム写真

一般的なデジカメの撮像素子は画素毎にカラーフィルターを貼った構造をしている。豆粒のような撮像素子上に1,000万枚以上のカラーフィルタをどうやって貼るかということは考えないことにしているが、何にしても構造的には「カラーフィルム」なのである。

AP15に限らず大多数のデジカメはモノクロームで撮るモードを持っている。しかし撮像素子はカラー用なので、カラー画像用のデータからモノクローム画像を作って記録しているのだ。カラーで撮ってPCで後処理してモノクローム画像にしても結果はあまり変わらないので、「とりあえず普通にカラーで撮っておけば?」と言いたくなる。

もし本当にモノクローム写真を極めたいのなら、カラーフィルタがないモノクローム専用撮像素子(つまりモノクロームフィルム)を搭載したカメラが理想的。その方が感度や階調特性上有利だし、ローパスフィルターも不要なので素子本来の解像力が得られる。現実には「LEICA M モノクローム」という機種が存在する。しかし私自身はモノクローム写真を極めようという気はなく、カラー写真が撮れないという「大欠点」を持つカメラに100万円を出す気はもちろんない。噂ではあのメジャーメーカーがモノクローム撮像素子を載せたカメラを開発中とのこと。常識的な価格なら手を出すマニアは少なからずいるだろう。

 

驚愕のフィルム感

さて、M532はカラー写真が撮れるデジカメなので当然使われている撮像素子はカラーフィルターを貼り付けた普通の撮像素子である。モノクローム撮影モードなど他のデジカメと大差ないだろうと考えるのが普通。しかしそれは完全に裏切られる。

まず以下の作例をご覧頂きたい。画像をクリックすれば元サイズのものが開くので是非そちらでご確認を。これに驚かない方は本稿全体を読み飛ばして頂きたい。

 

「フィルム効果 Tri-X」で撮影(画像クリックで元サイズ)

 

「フィルム効果 Tri-X」で撮影(画像クリックで元サイズ)

 

「フィルム効果 Tri-X」で撮影(画像クリックで元サイズ)

 

「フィルム効果 Tri-X」で撮影(画像クリックで元サイズ)

 

「フィルム効果 Tri-X」で撮影(画像クリックで元サイズ)

 

「フィルム効果 Tri-X」で撮影(画像クリックで元サイズ)

 

実はM532にはモノクロームモードというものはない。「フィルム効果モード」という往年のコダックフィルムの写りを再現するモードがあり、その中にT-MaxとTri-Xという2大モノクロフィルムの設定があるのだ。ただモノクロームで記録するだけのカメラ(例、AP15)とは気概が違うのである。

上の作例は「フィルム効果 Tri-X」で撮ったもの。単に階調がハイコントラストに調整されているだけではなく粒子(フィルムグレイン)も付加されている。フィルムで撮ったと言われればころっとだまされてしまう出来だ。これが1万円程度の小型デジカメで撮った画とは誰も信じないだろう。実際カメラ内でかなり複雑な画像処理をしているらしく、このモードで撮れば次の画像を撮るまで10秒ほど待たされる。

以下は同じ被写体を撮影モードを変えて撮り比べたもの。フィルム効果モードが単なるグレースケール変換でないことがはっきりとわかる。

 

         
     
 
スマートキャプチャ(通常のカラー撮影)
 
左の画像をPCでグレースケール変換
 
         
 
 
 
 
フィルム効果「T-Max」
 
フィルム効果「Tri-X」
 
         

 

等倍に切り出した画像。元の画像にない粒子(フィルムグレイン)を付加しているのがよくわかる。

         
     
 
スマートキャプチャ(通常のカラー撮影)
 
左の画像をPCでグレースケール変換
 
         
 
 
 
 
フィルム効果「T-Max」
 
フィルム効果「Tri-X」
 
         

 

モノクロームの存在意義

M532はカラー用撮像素子から得たデータをカメラ内で大変な苦労をしながらモノクロフィルム調の画像に変換している。RAWで記録できるカメラを使ってPCで後処理すれば同じ(またはそれ以上の)結果が得られるのでは・・・・というのは正解。本格的にモノクローム作品を作るつもりならそうする方が良い。

コンパクトデジカメにおいては、その気になった時気軽にモノクローム写真を撮れるのが肝要。それでこれだけの画が撮れれば御の字だ。M532以上に楽しい「モノクロームデジカメ」を私は知らない。

 

夢は再び?

M532が登場したのはコダックが倒産する前年の2011年。日本市場では既にコダックデジカメは相手にされていなかった。某大手Webデジカメ情報サイトの編集者にM532の話をしたら、存在すら知らなかった。人知れず生まれ、人知れず消えていったカメラである。2014年現在、「M532」をGoogle検索をすればこのコラムが上位に来る始末だ。

M532には「日本設計、中国製造」と誇らしく書いてある。どこが設計したか私は推測できる。(良い仕事でした。)M532が生まれた頃コダック内部には自力でデジカメを開発する体制は既に無かったが、M532はまぎれもなく「コダックのカメラ」である。その後コダックは倒産しすぐに再建したのだが、その時カメラの商標権を他社に渡している。今後コダックの名前を付けたデジカメが現れるとしても、商標権を買ったどこかが作った製品ということになる。

さて、数年前からコダックブランドのミラーレスカメラS-1のうわさが流れていたが、どうやら海外では発売したようである。

 

Pixpro S1

 

開発しているメーカーに謎が多く、本当にリリースされるかどうか疑問だったのだが現実のものとなった。このカメラには「フィルム効果モード」が搭載されているという。M532と結果を比べてみたいものだ。新しい開発スタッフの能力と気概に期待して。

 

 

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