闇に隠れて生きる 日立デジカメ (1)

カメラ店では見つけられないデジカメ

日立製作所と言えば日本を代表する大企業で、原子力発電所から電球まで様々な物を作っている。ところがデジカメは作っていない。それなのになぜ日立デジカメが存在するのか、まずここから話を始めよう。日立製作所は国内だけでも数百の関連会社がある。これらは多かれ少なかれ日立製作所と関連しているので、ニセ日立ではなく「日立の一種」である。その中に日立リビングサプライという会社があり、ここが「日立デジカメ」を出しているのだ。もちろん日立リビングサプライが自力でデジカメを開発しているわけではなく、どこかのメーカーがOEM製品として作ったものに日立のブランドを付けて販売しているだけだ。ところがこの「日立デジカメ」はカメラ本体やパッケージに「HITACHI」とか「Inspire the Next」とか書いてあるわけだから、普通の人は日立製作所の製品であると思ってしまう。

日立デジカメはまずカメラ店では見つけられない。この理由についてははっきり言っていいだろう。扱うに値しないものだからである。日立デジカメは10年以上前から存在するが、性能的には同時期のデジカメに全く及ばず、デザインや質感は論外である。一時カメラ店の「トイデジカメコーナー」に置いてあったこともあったが、最近では全く見かけない。新製品が出てもカメラ雑誌で取り上げられることもなく、カメラ好きの話題にもならず、それでいてずっと存在し続けている。闇に隠れて生きる妖怪人間のような存在である。

 

その生息パターン

このコラムを読んでいるような人と違い、世の中にはカメラに詳しくない人も沢山いる。そんな人たちが地元のホームセンターの片隅で日立デジカメを目にしたとする。「そう言えばXXさんの家でもデジカメを買ったといってたなあ。私も買ってみるか。」と考える。そして「おっ、日立じゃないか。うちのテレビと同じだな。」なんて思う。「値段は・・・何だ結構安いじゃないか。」と思ってしまう。こういう人たちは今のデジカメ相場を知らず、同じ値段でもっとちゃんとしたデジカメが買えることなど知らないのだ。そしてご購入となる。

雑誌通販やテレビショッピング、ネットショッピングの世界でも日立デジカメは生息している。

日立デジカメを持っているとカメラ好きからはいろいろな突っ込み(攻撃)を受けることになる。しかし日立デジカメを買うような人はカメラ好きの知り合いなどいないのでめったにそういうことは起こらない。自分のカメラと他のカメラを比較することもないので、デジカメとはこういうものだと思っている。実に平和な世界であり否定すべきものではないが、我々とは別の世界であることは確かだ。

 

始まりは地獄三兄弟から

日立デジカメは2002年に発売されたHDC-1から始まる。(それ以前の製品は「前史」とする。)HDC-1はその後HDC-2(HDC-2V)、HDC-30Xとモデルチェンジされた。私はこれら3機種を「地獄三兄弟」と呼んでいる。

 

   
 
HDC-1 地獄長男

 

   
 
HDC-2 地獄次男

 

   
 
HDC-2V 地獄次男(HDC-2のマイナーチェンジ機種)

 

   
 
HDC-30X 地獄三男

 

長いカメラの歴史の中には醜悪なデザインのカメラもいくつか存在する。しかし醜悪とは言い換えればクセが強いということなので、それを好む人もいる。地獄三兄弟は、何というか、相手にもしたくないデザインである。カメラデザインの作法から完全に外れている。地獄三兄弟を見ていると、こんな物が思い浮かぶ。

 

 

中国の農民芸術家、呉玉禄氏製作のロボットたちである。日本人の考えるロボットデザインの作法から完全に外れている。もちろん呉氏はガンダムを観て育ったわけではないし、メジャーなデザインの影響を受けていないという意味では貴重な存在だ。ただ、呉氏が製作しているのはアマチュアの芸術作品である。工業デザインの分野でそんな評価は成り立たない。カメラデザインには歴史の中で確立した作法というものがある。それを踏まえた上で崩すと挑戦的なデザインと評価されるが、踏まえていなければただ不作法なだけである。

 

意味の無い部材

地獄三兄弟のデザインはただ不作法なだけではなく、意味の無い部材が多く存在する。

 

 

カメラ上部、左肩にこのようなボタンらしきものがある。これが何であるかは説明書には記されていない。位置から考えるとポップアップストロボのようだが、ストロボはカメラ正面に付いている。押しても引いても動かない。

結論として、これはただの飾りである。カメラ上部が寂しいので、何かの部品っぽい模様を付けただけなのだ。昔の中国製三流家電品によく見られたデザイン手法だ。

 

 

カメラ前面、レリーズボタンの下にこのような穴がある。これが何であるかは説明書に記されていない。HDC-1にはあり、HDC-2(HDC-2V)ではこの穴は消え、HDC-30Xでは復活している。

 

 

しかもHDC-30Xではカメラ上部にも穴が追加されている。一体何なのだろう?

普通に考えればカメラにある穴はマイク穴か内蔵ブザーからの音を通すための穴だ。地獄三兄弟はマイクを搭載していないのでマイク穴ではない。ブザー用の穴なら前面や上部に置くことはあまりない。

HDC-2(HDC-2V)で穴が一旦すべて無くなり、HDC-30Xで穴が2カ所に増えた理由に至っては全く想像もつかない。外からいくら眺めてもわかることではないので、HDC-30Xを分解して調べてみた。(注、ストロボ付きカメラの内部には高電圧部品が存在するので、一般の方はカメラの分解をしないでください。)

 

HDC-30X内部

 

結論として、ブザーはレンズの下にあった。上部の穴だけでなく、前面の穴にすら意味はなかったのだ。

結局これらの穴はただの飾りに過ぎなかった。各穴の下にはブザーを置くスペースらしきものはあるので百歩譲って内部の仕様変更に外装が追いつかなかったのだとしても、穴が2カ所ある理由にはならない。やはり「中国製三流家電品によく見られたデザイン手法」と考えるべきだ。地獄三兄弟は21世紀の産物である。このころは中国でもまともなデザインの製品が作られていたので、地獄三兄弟のデザイナーはたとえ中国人であったとしてもレベルは低い。

 

他機の遙かに後を行く性能

話を地獄三兄弟に戻そう。デジカメの撮像素子には主にCCDとCMOSの二つの方式がある。昔はCCDに比較してCMOSの画像は極端に劣っており、監視カメラ等に使われることはあってもビデオカメラやデジカメに使われることは希だった。今ではかなり様子が変わり、どちらの方式でも使いようによっては十分な画質が得られるようになっている。さて、地獄三兄弟はCMOSを使っている。もちろん「CCDに比べて極端に劣っていた」時代にである。当然画質は語るに値しない。カメラ店でトイカメラ扱いだったことも当然である。

しかも地獄三兄弟は機械式シャッターを搭載していない。技術的な解説は省くが、CMOSで機械式シャッター無しのカメラではこういう「グニャリ画像」が撮れる。

 

HDC-2Vで撮影

 

普通の人がこんな画を見れば、カメラが故障していると思うだろう。しかし地獄三兄弟はこう撮れることが仕様なのだ。他のカメラメーカーがこんなみっともない画にならないようにするために講じている対策を省略しているのだ。

ちなみに私がオークションで買った中古のHDC-2V(600円で落札)には作例が記録されていた。どこの誰かも知らない人のある日の思い出が・・・・

 

・・・・・あの夏、お台場に行ったね?

 

私も行ったよ。

 

間違えてマクロモードで撮ったね。ボケボケじゃん。(下注参照)

 

これじゃセイラさんが泣くよ。

 

ゆりかもめで帰ったんだね。

 

レインボーブリッジがグニャリ。

 

見事なグニャリ画像。わざと撮ったわけじゃないよね。

 

・・・・あんた、地方から新幹線で来たの?

 

これらの作例は撮影者のプライバシー保護のために私がアウトフォーカス処理をしたわけではない。元画像のままである。地獄三兄弟の液晶モニタは低画素でピントが合っているのかどうかも良くわからない。だから間違えてマクロモードに切り替えても気付かずに撮影を続けてしまうのだ。

教訓1: ここぞという重要な写真は日立デジカメで撮らないこと。
教訓2: 日立デジカメに腹を立てて中古屋に売る場合は、内蔵メモリの画像を消してからにしよう。

 

第2話に続く

 

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