AGFAのカメラはモノクロームの夢を見るのか

往年の大ブランド、AGFA

フィルムカメラシステムが実質の終焉をむかえてからもう10年が経った。だから今若い子にフィルムの話などしても疎まれるだけ。富士フィルムという名前は知っていても世界最大のフィルムメーカーだったコダックの名前は知らず、ましてやAGFA(アグファ)という大フィルムメーカーがあったことなど全く知らないというのが現代の正常な若者である。

AGFAフィルムはドイツ発祥のAGFA-GEVAERT社が製造していた。ヨーロッパでは大メジャー。日本での知名度はそれほどでもなかったが、90年代はカメラ量販店でもAGFAフィルムを良く見かけた。20世紀末にデジカメショックが業界を襲い、AGFAフィルムも例外ではなく岐路に立たされた。2004年にフィルム関連事業はAGFA PHOTOという新会社に移管されたのだが、これが翌2005年に倒産。これが実質的な終焉である。その後もAGFAブランドの製品は発売されているが、「少し別の物」だと考えるのが妥当である。

他のフィルムメーカー(富士、コダック、コニカ・・・・)の例にもれず、かつてはAGFAもカメラ本体を製造していた。OPTIMA SENSORシリーズ等の傑作機も存在するのだが、日本ではかなりのマニアでなければその存在を知らない。

 

デジカメとなって日本に現る

2009年頃、米GE(General Electric)の「GEデジカメ」が日本市場に参入した。GEはアメリカでは電機のトップブランドだが、日本で知名度はない。カメラ王国日本でどうやって戦うのか・・・と思っている間にもう滅びたようである。2014年7月現在でWebページwww.general-imaging.co.jpもなくなっている。保守サービスはAOFという会社が受け継いだようだが、新規販売は停止している模様。

このGEが2012年春にAGFAブランドのデジカメを日本に投入するとアナウンスした。発売は翌2013年になったが現実のものとなった。これがAGFAPHOTO AP15である。

 

AGFAPHOTO AP15

 

もっともこの機種は専用開発されたものではなく、基本となるカメラは米国でGEブランドで発売されているG100である(日本では未発売)。

 

GE G100

 

基本となるモデルがあると言っても、AP15は日本仕様に様々な変更を施しており、ただ外見を変えただけではない。がんばっている方である。

それではこのAP15はどうなったかというと、発売後数ヶ月で投げ売りが始まり量販店でも10,000円以下で売られる事態となった。翌2014年にはGEが日本でのデジカメ事業を停止してしまったので、親玉もろとも爆死である。AP15はAGFA PHOTOブランド唯一の製品となった。

 

最大のウリ、モノクロームモード

GEがAGFAブランドのカメラを日本市場に投入したのは、要するにGEブランドでは全く売れないことを理解したからだと思う。日本の超一流メーカーですらLEICAやZEISSといった名前のお世話になるぐらいカメラ業界は新参者に厳しい世界なのだ。しかし正直言ってAGFAという名前で勝負をかけるのは無謀だった。マイナーすぎるのだ。

さてAP15がどういう路線で展開しようとしたかは、このキービジュアルをご覧頂きたい。

 

 

AP15の最大のウリとされたのがモノクロームモードである。本体上部のダイアルで簡単にモノクロームモードに切り替えることができる。これは元になったG100にはない機構だ。AGFAは元々老舗のフィルムメーカーなので、そこから渋いモノクロフィルムを連想させ、それを「写真史の系譜」というよくわからない言葉に結びつけようとしたのであろう。(しかし「写真史の系譜」って日本語にすらなっていないような・・・・。)ここで疑問。

 

AGFAのモノクロフィルムって有名だったかな?

 

コダックやイルフォードならピンとくるのだが。まあいいか。どうせAGFA自体が有名じゃないのだから。

 

モノクロームモードの真実

多くのデジカメはモノクロームで撮るモードを搭載しており、フィルムの時代ならいざ知らずデジカメでは撮ったカラー写真を後でモノクロームにすることなど容易である。AP15は本体上部にモノクロームモードへの切り替えダイアルを装備している「モノクロームがウリ」のカメラなのだから、後処理でモノクロームにするより格段の仕上がりを見せるのだろう・・・・と期待して実写してみた。

 

カラーモードで撮影

 

モノクロモードで撮影

 

カラーモードで撮った画像をPCでグレースケール変換したもの

 

・・・・・後者2枚に差があるだろうか。よっぽどの人なら違って見えるのだろうが、私のような凡人は「大差ない」としか言えない。念のために一部を等倍で切り出してみた。

 

モノクロモードで撮影

 

カラーモードで撮った画像をPCでグレースケール変換したもの

 

やはり顕著な差は無い。はっきり言ってこの「モノクロームモード」というのはただのグレースケール変換である。他の多くのデジカメの持つモノクローム撮影機能と同様、せっかくカラーで撮った写真をグレースケールに変換して記録しているだけだ。

 

これでは勝負にならない

AP15が実際に発売されたのは2013年。私はこの年が「廉価デジカメが消えた年」だと認識している。その数年前からローエンドのコンパクトデジカメは市場で飽和し全く利益を生むことができない商品になっていた。スマートフォンの普及が追い打ちをかけ、商品としての意味も失われていった。2012年頃からカメラメーカーのこの商品分野からの撤退傾向が顕著となり、2013年にはカメラ量販店の販売スペースからも急速に消えていった。

AP15はこの最悪の時期に登場した。日本の名だたるカメラメーカーでさえ手詰まりになった商品分野である。AGFAという名前にモノクロームモードなどという半分インチキのような機能を付けたところで勝負にはならなかった。

 

造りはただの廉価カメラ

そもそもGEという米国の大メーカーは自力でデジカメを開発しているわけではない。主にアジアのOEMメーカーで開発・製造されたものをGEブランドで販売している。これは日本のカメラメーカーも例外ではなく、低価格の商品は他社からのOEM製品であることはよくあることだ。ただ一流カメラメーカー自分の看板を汚すわけにはいかないので、ある水準以上のOEM元を選ぶし、ちゃんと品質管理は行う。

以前このコラムでも書いたことだが、GEのデジカメはアメリカ市場ではよくある「エントリー商品」というジャンルである。アメリカには製品に細かいことを求めない購買者層が日本以上の割合で存在する。この人たちにとってはデジカメはちゃんと写れば良い。カメラの質感や操作感などはどうでも良いので、メーカーは価格重視でOEM先を選び廉価で大量販売を行う。GEは高級カメラに参入したりしない。米国人だってこだわる人はキャノンやニコンを買うのである。自分の立ち位置を把握して賢い商売をしているのだ。

これと違い日本市場ではエントリー商品はただの安物と判断されてしまう。だからGEは安物メーカーとしか認知されない。安物ばかり並べているメーカーは三流と認識される。要するにGEブランドデジカメを日本で展開するのは初めから無理があったのだ。

AP15はGE G100ベースのカメラなので造りはただの廉価カメラだ。スペック的には14.4万画素の撮像素子に光学15倍ズームレンズを備えているが、上の作例の通り歪んでねぼけた画しか撮れない。オートフォーカスなどは10年前のカメラを彷彿とさせる遅さである。これを当初は実販価格3万円程度にするつもりだったらしいが、それは無謀というものである。参考までにこれがCanon G15で撮った画像。違いは明らかである。日本ではこのG15が3万円台で買えるのである。

 

Canon G15で撮影

 

上の画像をPCでグレースケール変換したもの(等倍で切り出し)

 

ケースは出色の出来

AP15で出色なのは専用ケースである。(それだけか?)別売りでなく本体を買うともれなく付いていた。発売記念の初期ロット限定プレゼントだったらしいが、それからAP15が追加生産されたとは思えないので事実上ほとんどの本体に付いていたのだろう。このケース、おまけというレベルではない。専用設計の本革製で、造りも仕上げも大変に良い。AP15は数千円で投げ売りされる事態となったのだが、このケースだけでそれだけの価値はある。

 

立派なケースにペラペラの本体

 

 

このケース唯一の欠点は、他のカメラに使えないことだ。

 

AGFAというブランド名、モノクロームモード、高級な付属品・・・・・ AP15に欠けていたのは本質的な実力である。これで商売ができるほど2013年のデジカメ業界は甘くなかった。

 

一時代の終焉

AP15はGEデジカメもろとも消滅した。これは単にマイナーなデジカメメーカーが消えたというだけでなく、廉価なコンパクトデジカメという産業分野が終わりを迎えたということだ。これから先、何か特別な理由がない限り新規参入メーカーは現れないだろう。AGFAのカメラは「廉価デジカメ時代」の最後の記念碑だったのかもしれない。まあやっていた人にそんな気は微塵もなかっただろうが。

 

 

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