3Dデジカメ レクイエム(5)

海外にも現れた3Dデジカメ

ストレートに言って、2010年頃わらわらと現れた3Dカメラ・3D家電は「アバター」(2009 米)という3D映画に触発されたものだ。アバターはいまだに映画興行の世界記録を持つ大ヒット作である。初めから3Dコンテンツとして製作され、映画館における3D上映という理想的な方法で提供された。それを見て「これからは家庭用テレビや映像機器も3Dになる」と誰かが言い出し、それを聞いた判断力のないメーカーが一斉に製品を作りはじめた・・・・製品開発に限らず、人の歴史にこんなことは多々ある。

2013年夏、米国で唯一3D放送されていたスポーツチャンネルが終了したとのこと。米国でも3D家電は終息である。

さて、日本メーカーの3Dデジカメは海外、特に米国に輸出された。これはアバターが形を変えて米国に逆輸入されたものと言える。FinePix REAL 3D W3やPanasonic DMC-3D1等の本格デジカメはもちろん輸出されている。面白いのは3D-COOLの説明書に「出荷地域 日本・アメリカ」と書いてあること。普通こんなことは説明書に書かないものだが、とにかく米国に輸出する意思はあったらしい。

 

3D-COOLの説明書より

 

米国独自のモデル

さて、米国には日本では見かけない独自ブランドのカメラが少なからず存在する。と言っても米国のカメラ製造業は何十年も前に壊滅しているので、米国製というわけではない。どこかで開発・製造されたものに自分のブランド名を付けて販売するという手法である。今回の話題はそんな一社「Vivitar」の販売した3Dデジカメ「ViviCam T135」(以下T135)である。

 

ViviCam T135

 

Vivitarはフィルムカメラの時代から続く老舗で、日本では全く知られていないが米国ではちょっとしたブランドである。T135も他の製品同様アジアのどこかで開発・製造されたカメラのOEMだろう。このカメラ、私が知る限りでは類似の製品が見つからないので、Vivitar専用モデルとして開発されたのかもしれない。

 

まさかのアナグリフ方式

3D映像の原理は、簡単に言えば左右の目で違う画像が見えるようにすることだ。レンチキュラーや視差バリア方式ではパネルを見る角度によって違う画像が見えるよう作られており、液晶シャッター眼鏡式では高速で左右の視界を塞ぐことにより違う画像が見える仕組みになっている。

ところが3D映像にはもう一つメジャーな方式がある。アナグリフ方式だ。「赤青の色眼鏡をかける方式」と言えばピンとくる方は多いと思う。T135はおそらく唯一のアナグリフ方式3Dデジカメだ。

 

こんな色眼鏡をかけて見る「アナグリフ方式」

 

他の3Dデジカメがアナグリフ方式を採用していない理由は明白。今の時代、カラー写真でなければ商品にならないからである。アナグリフ方式は二枚の画像を赤青のフィルターをかけて撮影し、重ねて焼き付けた画像を赤青の色眼鏡で見るというもの。本来はモノクロ映像の技術である。しかし時代は進み、今ではアナグリフ方式でもカラー画像が得られるようになった。赤青のフィルターの分光特性を工夫するとか人間の錯視を利用するとかして、何とかカラーに見える画像を得ているのだろう。しかし赤青眼鏡をかけて見ることには変わりないので、、完全で鮮やかなカラー映像は得られない。とにかく日本のデジカメメーカーはアナグリフ方式など眼中になかったのだ。

百聞は一見にしかず。T135で撮った画を観てみよう。

 

2Dモードで撮った画像(クリックでフルサイズ)

 

3Dモードで撮った画像(クリックでフルサイズ)

 

2Dモードとは、要するに片側のイメージセンサの画像である。3Dモードとは、左右各のイメージセンサの画像をカラーフィルタ処理し、合成したものである。もし貴方がアナグリフ用色眼鏡を持っていれば、上の画像は3Dに見えるはずだ。

はっきり言って画は悪い。画素数は1200万画素もあるのだが、光学系その他のレベルが全く追いついていない。他の3Dカメラ(W3や3D-COOL)は500万画素程度だが、それらより画が悪いと言って良い。これは2Dモードの話で、3Dモードではそもそも色ずれを起こしたエキセントリックな画しか撮れないので、画質は他と比較しようがない。

 

米国的割り切りの産物

アナグリフ方式にも利点がある。何より3D画像を見るための高価な装置が不要だ。基本的にアナグリフ用色眼鏡さえあればよいので出費は1,000円程度で済む。色セロファンを買って眼鏡を自作すればもっと安くつく。

全く知られていないことだが、Youtubeにはアナグリフ方式の動画が多数掲載されている(Youtube内で「3D」をキーワードに検索)。Youtube動画を見るのに何万円もする装置を買えというのは成立しない話だが、タダ映像をちょっと楽しむのにアナグリフ眼鏡を用意するというのはアリである。米国人はこういう割り切りのセンスはあると思う。市場の要望も考えずに正攻法でフルカラー3Dシステムを開発する日本メーカーよりはスマートだ。Youtubeの3D動画などはどうせ数回見たら飽きてしまうものなのだから。

 

技術的には面白い

さて、アナグリフ方式の3Dデジカメというのは技術的には極めて面白い。普通に考えれば左右各のイメージセンサの前にカラーフィルタを挿入する機構が必要だ。しかし電子撮像素子はそれ自体が画素ごとにカラーフィルターが貼り付けられた構造となっているので、単に信号処理だけでカラーフィルタ処理した画像が得られ、追加の機構は必要ない。実にスマートなシステムなのだ。

撮影した画像は2D、3D共通常のJPEG画像として記録されることもポイント。パソコンでサムネイルを表示させれば容易に管理できるのだ。普通にプリントアウトもできるので、プリントした3D画像を色眼鏡で見て楽しむこともできる。(やるかやらないかはその人の意思。)3D画像にもちゃんと撮影情報(Exif)が含まれる。

惜しむらくは、3Dモードではアナグリフ画像のみが記録されることだ。アナグリフ画像は後で「普通の」カラー画像に戻せない。富士W3などと同様、3D、2D画像を同時記録するモードがあればかなり汎用性が増したと思う。

 

液晶パネルも3D(?)

本機の背面液晶パネルは、3D撮影時には撮影画像と同じ「色のずれた画像」が表示される。これをアナグリフ用色眼鏡で見ればちゃんと立体に見える。だから本機は3D液晶パネル装備と言える。 ・・・しかし、実際に赤青の眼鏡をかけて人前で写真を撮らないでほしい。不審者以外の何者でもない。

 

第6話に続く

 

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