3Dデジカメ レクイエム(4)

大メーカーが作ったトイカメラ

私が子供の頃、SONYは新技術で人々に新たな驚きを提供するメーカーだった。(カセットテープの)ウォークマンは登場時に類似する商品すらなかったし、8ミリムービーカメラを開発し「パスポートサイズ」として発売した時は、あまりの売れ行きに長期間の品不足が起こった。SONY製品は家電としては耐久性には問題があったが、カタログスペックはとても高かったのでファンも多かった。90年代まではこの状態が持続したが、今では見る影もなくなった。

今回の話題はSONY製Bloggie 3D MHS-FS3(以下FS3)。発売は2011年である。

 

 

SONYらしいやる気のなさ

SONYはコンパクトデジカメにサイバーショットというブランドを持っている。だからもし本格的な3Dカメラを作ったとしたら、「3Dサイバーショット」として売り出しただろう。FS3は型番がDSC-FS3でないことからわかるようにサイバーショットの一員ではない。コンパクトデジカメではなく「モバイルHDスナップカメラ」というジャンルの製品らしい。それがどんなものだか良くわからないが、2013年8月現在ですべての機種が生産完了になっていることから考えると、要するにぬかるんだ製品ジャンルだったのだろう。

SONYは今でも業務用ハイエンド映像機器の雄であり、民生向けデジカメやビデオカメラに関しても世界最高水準の製品を供給している。しかしローエンドの製品では目を疑うようなダメ製品を発売することが多々ある。FS3は平たく言えばブログに載せる画を撮るための低性能カメラだ。本来は秋葉原の雑貨屋で数千円で売られる内容。これにSONYというロゴを付け「モバイルHDスナップカメラ」などという横文字のかっこいい名前を付ければSONY好きの人が数万円で買ってくれる、そういう意図の製品だ。

FS3の形状はまったくスマートフォンで、カメラとしての品位は全く無い。ボタン類も極めて操作しにくく、使い勝手は劣悪である。電池やメモリが取り出せずUSBを使って充電やデータ転送を行うのも全くスマートフォン感覚。またこのUSBコネクタの造りがひどい。本体から短いUSBコネクタが飛び出し直接USBポートに挿せる仕様だが、こんな重くて大きい物を直接挿せると思って設計したのだろうか?60cmほどのUSB延長ケーブルが同梱されていることが笑いを誘う。

 

かっこいい「飛び出すコネクタ」。普通にmimi USBコネクタを付けないところがSONY。

 

実写結果を見てみよう。まずは2D画像から。

 

Bloggie 3D MHS-FS3による作例(2DモードのJPEG画像) クリックでフルサイズ

 

周辺部の画質低下が著しく、明らかに3D-COOLよりも画質が悪い。レンズの仕様が違うので(FS3はAF、3D-COOLは固定焦点)一概には言えないが、同じF値のレンズとほぼ同じ画素数のセンサを持った無名ブランドのカメラにおよばないのである。画質より問題なのはFS3レンズの焦点距離が35mmフィルム換算でf=47mmと長いことだ。私はf=35mmを切らなければスナップには使えないと考えている。3D-COOLがf=36.3mmとぎりぎり合格ライン、FS3は全く不合格である。何が「モバイルHDスナップカメラ」だと言いたい。2D画像に関してはこんな携帯もどきのカメラで撮るより素直に携帯で撮るほうがましである。

次に3D画像。MPO形式で記録される。いつものように疑似3D画像として表示する。

 

MPOデータから作成した疑似3D画像

 

ご覧の通り、切り替わっている2枚の画像でホワイトバランスが大きく違っている。こんな完成度の製品にSONYのロゴを付けて売るのは自分の首をしめるようなものだと思う。ちなみにこのカメラ、3DモードではAFは作動せず固定焦点となり3D-COOLと同仕様になってしまう。

 

論外の3D背面液晶パネル

このカメラは背面に3D液晶パネルを持っている。つまり裸眼で3D表示ができるということであり、富士W3と同じ仕様である。ただ出来がひどい。レンチキュラーではなく視差バリア方法で3D表示をしているのだが、この方式では画面に無数の黒い縦線が走り解像度が大きく低下する。それを小さな液晶パネル上でやるものだから画像は絶望的に粗くなりまるでスダレである。表示された文字は欠損して読み取れない。下図ではパネルの右上に「メニュー」と表示されているのだが、読み取ることは困難である。

 

画像クリックで拡大

 

この液晶パネルをファインダとして使用する場合、縦横比は9:16で表示される。2D撮影では3:4モードでの撮影もできるのだが、何とその場合も9:16で表示される(上下がカットされる)。レリーズボタンを半押しした時だけ3:4で表示されるのである。このあたりになると良し悪しでは語れない。ただだらしない製品である。

 

机上の製品企画の産物

3D家電自体が「これからは3D」という誰かが言い出した思慮の足りない企画に大勢が乗っかって生まれたものだ。しかしその中にはスジの通ったものもある。3D Shot Camなどは開発スタッフの「行ける」という思いが伝わってくる。(行けなかったが。)しかしこのFS3は開発スタッフの熱さは伝わってこない。「これからは3D」に「今ブログやSNSが大人気で、皆が専用カメラを持ちたがっている」という実体のない話がかけあわされて生まれたものだと思う。FS3の開発スタッフに「これは私が使いたい」と思って作った人はいないと思う。空虚で、用途も見えず、実際誰も相手にせず消えて行った製品である。

 

第5話に続く

 

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