3Dデジカメ レクイエム(1)

めずらしく最近のカメラの話題を

このコラムは「世界の果てにあるカメラの話」をするところである。筆者の性格上カメラへの深い愛情がストレートに文面に表れることがあるので、現行の商品について話すことは避けているのだ。さて、今回の話題は3Dデジカメである。2010年頃の「ごく一瞬」、3D映画や3Dテレビ、3Dビデオカメラなど3D家電品が涌いて出てきたことがあった。しまいには3D携帯電話などという物まで現れる始末。もちろん3Dデジカメも登場した。それからほんの数年しか経っていないが、このコラムに3Dデジカメが現れたということは死亡認定である。夭逝である。

3Dデジカメが商品として成立しない理由は説明するのもばかばかしい。3Dで鑑賞することができないからだ。3Dデジカメは2つの光学系で撮った2枚の画像を1組にして3Dデータとして記録する。しかしこれをモニタで再生するには3Dテレビ等の特殊機材が必要である。3Dデジカメの画を観るために3Dテレビを買う人はいない。他の鑑賞方法としては、富士フィルム3Dプリントで昔懐かしの「立体写真」にするという手があるが、そもそもプリントしなくても手軽に見ることができるのがデジカメの利点であり、時代に全く逆行している。筆者が子供のころ(40年以上前)なら、立体写真などをもらったら大喜びで一日中飽きずに眺めたことだろう。しかし魔法のようなガジェットがあふれている現代では子供も大して喜んでくれない。そのために1枚数百円の費用と数日をかけて3Dプリントを依頼するつもりは、私にはない。

3Dデジカメが登場したころは、家庭用テレビもすぐ3Dテレビに置き換わるという思慮のない願望があったのだと思う。少なくともメーカーの商品企画部内には。しかしテレビ放送やソフトといったコンテンツが3D化しない以上3Dテレビを買う人などいない。なぜコンテンツが3D化しないかは、実際に映像コンテンツを作ってみた人ならば誰にでもわかる。要するにかかる手間が桁違いでやってられないのだ。

本稿執筆のきっかけは、私が富士フィルムの3Dデジカメ「FinePix REAL 3D W3」が新品8.800円で売られているのを発見(於ヤマダ電機)したことにある。この3Dカメラ、元値は50,000円ほどであり、最近15,000円程度で投げ売りされているのは知っていたが、購入するには至らなかった。8.800円なら良いだろう(何が?)と思ってレジに持っていった。けど、いざ支払う段階になると少し高いなあという気がして、貯まっていたヤマダポイントを使った。

FinePix REAL 3D W3

 

W3、世界最高の3Dデジカメ

FinePix REAL 3D W3(以下W3)は手にした瞬間から高級感が伝わってくる。我々技術者は専用部品を新規開発することがいかに高くつくかを知っている。W3はその塊であり、特に背面の3D液晶パネルなどはとんでもない開発費がかかったことは明か。W3はその内容に負けないよう外装も贅沢に仕上げたのだろう。元値50,000円というのもバーゲン価格だと言える。

これほど本格的な3Dデジカメは旧モデルのFinePix REAL 3D W1(元値60,000円ほど)と、2012年に入って発売されたPanasonic DMC-3D1(元値50,000円ほど)ぐらいしかない。DMC-3D1(以下3D1)の背面液晶パネルが3D対応ではないことなどを考慮すれば、W3は明らかに世界最高の3Dデジカメである。最高の物はいずれ何かに追い越されるものだが、W3は永遠に最高であり続ける気がする。事実、W3は2013年7月の段階で生産を終了しいるが後継機のアナウンスは全くない。3D1の後継機の噂ももちろん皆無だし、はっきり言って3Dテレビが概ね終息した頃にこんなものを出しても遅すぎだった。

 

     
 
FinePix REAL 3D W1
 
Panasonic DMC-3D1
 

 

出色の3D背面液晶パネル

W3は背面にレンチキュラー3D方式115万画素高精細液晶パネルを備えている。つまり、裸眼でフルカラーの立体映像を見ることができるのだ。撮影時にこのパネルをファインダーとして使うと、目の前の立体物がパネル上に立体映像となって確認できる。(直接立体物を見ろよというつっこみはナシ。)撮った立体映像はパネル上に表示できるので、近所に子供がいれば見せて自慢することができる。(けど、その子がニンテンドー3DSを持っていたら、あまり相手にしてもらえないかもしれない。)

それにしてもこの液晶パネルは本当に良く出来ている。レンチキュラーの「かまぼこレンズ」の存在にも気付かないほどだ。技術とニーズがこれほど乖離した例もめずらしい。何かに利用できないかと考えてみるが、一向に用途は思いつかない。

 

役に立つ日は来るのか?MPO形式

普通のデジカメ画像はJPEG(.jpg または .jpeg)というファイル形式で記録される。W3や3D1のような本格的な3Dカメラは3D画像をMPO(.mpo)というファイル形式で記録する。MPOは簡単に言えば2枚(またはそれ以上)のJPEG画像を一つにまとめたものである。W3で撮ったMPO画像も下のように2枚のJPEG画像に展開することができる。

 

 

しかしMPO形式のデータを3D画像として見るにはしかるべき装置が必要。ブラウザ上で「こう見えます」と簡単に紹介できないところが現在の3Dシステムの限界を示している。平たく言えば役に立たないということだ。

上の2枚の画像を交互に切り替えて表示した「疑似3D画像」がこれである。実際は3D表示でも何でもないのだが、何となく雰囲気は感じて頂けると思う。

 

MPOデータから作成した疑似3D画像

 

このMPO形式が規格されたのは2009年である。要するに2010年頃存在した3Dムーブメントの一部として生み出されたものだ。このままではただ消えて行くだけの規格だが、将来何か用途が発見され、役に立つことを祈っている。

 

やはり快適ではない3D映像

昔の「色眼鏡式」3D映像の時代から考えれば3D映像も進歩したものだ。しかし、レンチキュラー式裸眼3Dはパネルに対する目のポジションを最適にしなければうまく見ることはできない。数年前、東芝のレンチキュラー式「裸眼3Dテレビ」が家電量販店に置いてあったが、テレビの前の床に「ここに足を置いて見て下さい」というマーキングがあった。こんな商品が成立しないということは子供でもわかりそうなものだが、大の大人が大金を投じて開発してしまうのだ。

液晶シャッター(眼鏡)式3Dや偏光(眼鏡)式3Dでは原理的にモニタの輝度が低下する。それ以前に私のように眼鏡をかけている人間はその上に3D眼鏡を重ねることなど考えたくもない。ごろ寝して見ることもできず、画面に正対して鑑賞することを強いられる。

映像に限らず、新製品が普及するには「一方的なメリット」がなければならない。大多数の人にとって、あるメリットを得るためにある苦労が必要だというのは受け入れられないのだ。3D映像が(白黒映像に対する)カラー映像のように一方的なメリットを与えるものなら普及する。そうでなければ、この先何度ブームが作られたとしても根付かない。

 

第2話に続く

 

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