さらば1/1.7インチ

一時代の終焉

全く私的な話だが、私の普段使いの愛機はキャノンGシリーズである。G10、(G11を飛ばして)G12、G15、G16と買い替えてきた。参考までにG13とG14は製品名として欠番で、元々存在しない。どうもこのGシリーズ、G16で打ち止めだったようだ。

 

 

キャノンGシリーズの一機種、G15

 

フィルム時代からカメラに携わっている私の感覚では、このGシリーズは完成された夢のカメラである。スナップカメラとして昔夢見たものを遥かに超えている。欠点を言うとただの言いがかりになってしまう。

 

イメージセンサのトレンド

さて、なぜGシリーズが(多分)終了になったかという話である。これはデジカメのキーデバイスであるイメージセンサ(撮像素子)のトレンドが関係してくる。最終的にGシリーズのセンササイズは1/1.7インチに落ち着いた。画質の点ではセンササイズは大きいにこしたことはない。1/2インチ以下だと画質はぐっと落ちてコンパクトカメラ然とした画になる。1/1.7インチが「立派な画」が撮れる境界である。実際G15やG16で撮った画はスナップ写真として何ら不満はない。

今はこのセンササイズを大きくして高画質化するのがトレンド。ただそうするとレンズが大きくなるしそれにつれてカメラボディー全体も大きくなる。消費電力も大きくなるので電池のもちも悪くなる。常に持ち歩くスナップカメラとしてはマイナス要素も出てくるのだ。G15やG16は明るい広角系ズームレンズが付いている。それでこの大きさに収まり電池も良くもつわけだから、私はここ数年「1/1.7インチがベストバランス」と考えていた。今でもそう考えている。

ところがGシリーズは(多分)終了した。イメージセンサを1インチに大型化したG~Xシリーズが現れたのだ。センササイズが1.7倍、面積にして3倍近くも大型化した。そんなG~Xシリーズを何機種も投入してきたのだから、キャノンがGシリーズを再開する可能性は極めて低い。

 

キャノンG~Xシリーズの一機種、G7X

 

上図はG~Xシリーズの中心機種(Gシリーズの置き換えにあたる)、G7Xである。光学ファインダやスームの倍率等割りきった部分はあるが、これだけセンササイズを大型化してカメラ全体の大きさを同じに抑えているわけだ。設計者の能力と努力に脱帽である。

 

どうして1/1.7インチだけが?

画質を上げるためにイメージセンサが大型化するトレンドがあることは述べた。「じゃあ、1/2インチ以下が1/1.7にシフトするの?」というと、そうはならない。

世の中には超小型カメラ(キャノンで言えばIXYシリーズ)や手のひらに乗る高倍率ズーム機(キャノンで言えばPowerShot SXシリーズ)の需要がまだある。これらは画質よりカメラの小ささがウリなので、センササイズを大きくするわけにはいかないのだ。また、携帯電話用のカメラでも同様で、1/2インチ以下の小型イメージセンサが必要な状況はまだまだ続く。

今まで「ちょっと上行くコンパクトカメラ」用途だった1/1.7インチ(つまり1インチと1/2インチの間)センサが1インチに移行し、その部分にぽっかり穴が空こうとしている。キャノンに限らずニコンやパナソニックのコンパクトカメラも同様な推移をたどっているので、まあ業界の全体的な流れである。

半導体というのは設備(装置)産業である。多品種少量生産と対極の世界だ。需要が減ったデバイスは消えてゆくしかない。卵が先か鶏が先かは知らないが、1/1.7インチデジカメが消え、そして1/1.7インチセンサが消えるのである。

 

輝かしくはないが光るもの

上から目線で申し訳ないが、一般のユーザーは華やかな宣伝文句に飛びついてしまうし、メーカーはそれをあてにして開発・販売を行うものだ。

私がフィルムカメラ技術者だった90年代はコンパクトカメラのズーム倍率競争というものがあり、2倍より3倍、3倍より4倍ズームが高級などという珍妙な宣伝をやっていた。実際にカメラを使っている人ならズームの倍率より広角側が何mmかということの方が重要だと知っている。しかしカメラ屋に「どんなカメラがいいですか」と来る素人には「これなんかすごいですよ、何しろ4倍ズームです」と言えばウケが良いのだ。50mmから200mの4倍ズーム機などが売られていたわけだが、部屋の中で3人並んで撮れないコンパクトカメラなんか私なら持ち歩かない。

さて最近のイメージセンサ大型化の話である。宣伝文句には「背景をぼかした美しい写真が撮れる」という文言が踊っている。それは間違いではない。ただ、コンパクトデジカメはポートレートを撮るものではないよね?スナップ写真ではピントが深い方が良いこともあるよね?1/1.7インチセンサーでもけっこうボケるよね?デジカメ画像はフィルムの時代と違って大きなモニタで見ることが多いわけだから、盛大にボケる必要はないよね・・・・などと「少し」思ってしまう。いや、少しですよ。

今のデジカメは立派な動画が撮れる。(デジタルシネマ用は別として)一般にビデオカメラのイメージセンサはデジカメ用に比べて小さい。業務用のキャノンXA35(そして私の愛機G20)でも1/3インチ程度である。取材用のカメラとしてはこれぐらいが良いのである。前後がボケすぎると画に違和感が出るし撮るのも大変である。コンパクトカメラの動画機能は「動画スナップ」用途である。人物主体の劇映画を撮るわけではないのだ。むやみにイメージセンサが大型化すると、むしろ使い勝手が悪くなってしまう。

私は普段使いのスナップカメラ用としては1/1.7インチ程度のセンササイズががちょうど良いと思うのですよ。。輝かしくはないが光る、大人受けするデバイスだと思う。

 

懐かしさだけでは生きていけない

好む好まざるに関わらず物事は変化する。1/1.7インチセンサがどっちつかずの中途半端な存在になり消えてゆくのもそんなに先の話ではない。今使っているG15・G16が壊れれば次は1インチセンサに切り替えなければならない。

こんなこと今まで何度もあった。昔の物に執着するのは年寄りのすること、そう思っていた私もかなり歳をとってきた。いつまで抗えるかだ。手元の1/1.7インチセンサデジカメを見ながらそう思う日。

 

 

 

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